ディープサウンドエンジニアリング 1

ディープサウンドエンジニアリング

〜 音楽家と超現場主義エンジニアの為のデジタル講座 〜

 

はじめに

 

音楽やポストプロダクション(MA)にしろ、今音響表現の多くはデジタル技術が基盤となっています。放送業界も地上デジタル放送になって久しく、放送や映像作品、音楽の重心もWEB配信に比重が移っているのも確かです。テレビの地上アナログ放送の時代も今や歴史になりつつあります。映画だって今時日本国内においてフィルムで上映しているところは無いに等しく、納品もデジタルデータでされます。ライブの現場でもほとんどデジタルミキサーが導入されていて、ある意味ライブもデジタルサウンドと言えるかもしれません。今私たちはまさにデジタル文明全盛の時代を生きています。

このデジタル時代の恩恵をうけてエンジニアではない人にまで、DAWや専用ソフト上で高度な音響エンジニアリングの作業を行う人の裾野も広がりました。これはアナログ時代からすれば天国のような状況です。しかし、その一方デジタル音響の根本的な原理や仕組みを正しく理解している人はどれほどいるでしょうか? 知識が曖昧なまま作業をしている人の数が総じて多くなっています。

現代のように裾野が広がるのはとても良い事なのですが同時に弊害も存在します。他の業界にも言える事ですが突き抜けたクオリティーを生み出す人は存在しにくくなるのです。別にそんな事知らなくても昔に比べればはるかに高度な作業出来ている、という感覚が多数派になってエンジニアの間でも深く音を追求する人の数は減っています。そこまで拘ってもリスナーにはわからないし、確かにそんな高音質をテレビ、YouTube、配信等の領域で表現するのは不可能です。現在はマーケティング、コマーシャルで勝たなければ作品の価値がないという、功利主義全盛時代でもあるので致し方のないことかもしれません。全体の平均値が上がる事で気張らず横並びであることの方が「コスパがいい」という感覚が支配するのです。すると楽器、音響機器の市場もそのようなニーズに合わせた製品が並ぶことになります。悲しいけれど「そんな拘ってもわかんないよ」という言葉は現場で幾度も耳にした言葉です。しかし、僕もそれは確かに正しいとは思っていても、全てがCMのMAみたいな音響を作っていていいのか、とアンチテーゼを心に抱く事が多くなってきています。

僕はデジタル領域の解せない感覚に陥る度にネットに潜り情報を集め、いろんな参考文献を読み漁り原因を根本から探ってきました。しかし、その度に非常にわかりにくい説明にぶつかり、自分なりに理解し直し現場でも使えるようにイメージを再構築してきました。そのようなプロセスはアナログの分野でもある事なのですが、デジタルになるとそれが更に難解になります。いきなりどうやって読むのかわからないような記号の数式が出てきたり、人の体感覚からかけ離れたよくない例えが定番の説明として使われています。その上コンピューター言語の領域になってくると付け焼き刃の知識では何の役にもたちません。

一つのデジタル機器を作るにしても色んな分野の専門家が集まって製作しています。それぞれがそれぞれの専門家たちの言葉で解説しあっているので、デジタル機器の様々な現象は、どんどんエンドユーザーの言葉で理解するのが難しくなっています。

今このようなデジタルの知識が必要なのはエンジニアだけではなく、デジタルサウンドに触れる全てのクリエイターです。動画を編集して簡単なBGMをつけてYouTubeにあげるのは立派なMA作業ですし、宅録やLIVE配信で音の調整をするのは音響ミキサーの仕事です。リモートワークのマイク調整もしかりです。しかし多くの文献はエンジニア向けに書かれていて、職業にする気のない人には「一見さんお断り」のものばかりなのです。

ですから、この講座では理系か文系かといえば、私は音楽家です。ロッカーです。とういうような人や、理屈より良いものを作りたいという超現場主義のエンジニアに向けて言葉を選び、厳密な理解より、概要を理解し現場で使用可能な知識のイメージを提供できるように執筆していきます。ちなみに僕は仏文科出身です。より厳密な精度での理解が必要なバックエンドのエンジニアの方にはオススメしません。

またここで説明する知識を得たところで音楽や作業の質が劇的に上がる事はないでしょう。しかし、僕のシステム構築における信念は「塵も積もれば山となる」です。ほんの少しの改善が積もり積もってやがて異次元のサウンドになります。デジタルとアナログは相対するものではなく相互補完的なものなのです。

少しでもその礎になる事を願って。

 

配信中アルバム

5/30 New Album 『Fragile Corner』 

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Gray Tide』 

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